医院からのお知らせ

長引く炎症(火事)―従来の治療で治まらない辛い痛み、かゆみなど―に対する最近の新しい治療薬について~「サイトカイン」を制御する!

カゼを引くと熱が出たり、喉が痛くなったりします。それは体を守るため、その人の免疫力(抵抗力)が病巣で「外敵」と戦う結果おこる「炎症(火事)」によるものです。それ自体は正常な反応ですが、あくまで一時的なもので、時が経てば自然に、何ごともなく鎮火します。しかし、「外敵」によっては一見鎮火したように見えても、「暴走する、長引く火事」が残ることがあります。

カゼや新型コロナウイルスなどの感染症ではありませんが、アレルギー性疾患、リウマチ性疾患などでは、治療の介入がないと治まらない、あるいは従来の治療だけでは治まらない「暴走する、長引く火事」になることがしばしばあります。「暴走する、長引く火事」は、ともすれば後遺症を残すような、いろいろな不都合な変化をもたらします-痛み、腫れ、強いかゆみ、臓器や組織の変形、日常生活の制限、など。これらは、さらに治療が効きにくくなる方向へと向かわせます。

この「暴走する、長引く火事」に対しては、これまでにさまざまなお薬が開発、使用されてきました。その代表は「ステロイド薬」で、病気の治療に初めて使われたのが約70年前のこと(それは、関節リウマチでした)。当初は難病を中心としての使用でしたが、その後、さまざまな病気(炎症性疾患)に対して、より早期からも使用されるようになります。また、飲み薬だけでなく外用(軟膏)、吸入、点眼、注射薬など、病気に応じてさまざまな剤型が開発され、炎症性疾患に悩まされる多くの人々の日常を、あるいは生命を守る重要なお薬の一つと位置づけされてきました。ステロイド(副腎皮質ステロイド)は、そもそも人の体の「副腎(腎臓の上にのっかった小さな組織)」が分泌するホルモンです。簡単に言えば感染症、大ケガ、ショックなどのさまざまなストレスから人の体を守り、健康な状態に維持するため必要不可欠な物質で、その特性に注目し製剤化されたのがステロイド薬です。ステロイドの働きは、まだ全部解明されていないといってもいいくらい非常に多岐に渡りますので、皆さんが気にされる「さまざまなステロイド薬の副作用」についても、それは逆に「非常に多岐に渡るステロイドの働きの裏返し」とも言えます。

先に述べたようなアレルギー性疾患、リウマチ性疾患の中には、ステロイド薬を含めたさまざまなお薬を使うと症状がよくなる方はたくさんいらっしゃいます。しかし、それを減らしたりやめたりすると、残念ながら悪化する方もいらっしゃいます。「病状が治る方向に導きたい」のは当然、でも「長期間使用したとき、副作用も心配」。医学は、そのジレンマとずっと闘ってきました、、、「次の良い手はないものか?」と案じながら。

さて、近年の医学の発展とともに解明されてきたのが、炎症の場で重要な役割を果たす「サイトカイン」という物質の働きです。「サイトカイン」は低分子タンパク質で、さまざまな細胞から分泌されて、主に人の免疫力(抵抗力)をガッチリ守るために作用します。普通はとってもありがたい物質なのですが、アレルギー性疾患、リウマチ性疾患では、血液中や組織中で「サイトカイン」の産生や働きの調節、抑えが効かなくなっており、むしろ病気の発症や症状に関わるなど、迷惑な働きをしていることがわかりました。ならば、その抑えの効かなくなった「サイトカイン(炎症性サイトカインといいます)」を制御すればいいのでは?という発想が、最近の「生物学的製剤」や「JAK阻害薬」への開発へとつながります。

・「生物学的製剤」は主に注射薬で、それぞれの疾患に深く関与している「炎症性サイトカイン」に、あるいはその「受容体(細胞表面に存在し、「サイトカイン」が結合する部分)」に結合して、直接的、あるいは間接的に「炎症性サイトカイン」の働きを制御するお薬です。  

・「JAK(ヤヌスキナーゼ)阻害薬」は主に飲み薬で、「受容体」の根っこにある「JAK」という物質に結合し、細胞がさらなる「炎症性サイトカイン」を作り出すのを押さえ込むお薬です。

このように、炎症の制御は「迷惑な物質をよりピンポイントに押さえる」治療へと発展しつつあります。長引く炎症性疾患でお困りなお子さまへも、これらのお薬が新たな選択肢として、より有効かつ安全に使える時代と変わりつつあります。

当院では、以下のお薬が使用可能となっています。

★中等症~重症のアトピー性皮膚炎

<自宅で注射する薬>

・デュピクセント皮下注(正式名称:デュプリマブ、ヒト型抗IL-4/13受容体モノクロナール抗体、6ヶ月以上の方で処方可能です)

・ミチーガ皮下注(正式名称:ネモリズマブ、ヒト化抗IL-31受容体Aモノクロナール抗体、13才以上の方で処方可能です)

<経口薬>

・リンボック(正式名称:ウパダチニブ、JAK阻害薬、12才以上かつ体重30kg以上の方で処方可能です)

・サイバインコ(正式名称:アブロシチニブ、JAK阻害薬、12才以上の方で処方可能です)

★治療抵抗性の若年性特発性関節炎

<自宅で注射する薬>

・エンブレル(正式名称:エタネルセプト、ヒト型TNFα/β受容体融合蛋白)

・ヒュミラ(正式名称:アダリムマブ、ヒト型抗ヒトTNFαモノクロナール抗体)

<クリニック内で注射する薬>

・アクテムラ点滴静注(正式名称:トシリズマブ、抗ヒトIL-6受容体モノクロナール抗体)

・オレンシア点滴静注(正式名称:アバタセプト、T細胞選択的共刺激調整剤)

★その他のアレルギー、膠原病や自己免疫性疾患のお薬についても、ご相談に応じております。

病気のことや、お薬のことでは、まだまだお話ししたいことはたくさんありますが、あとは外来で直接お話しさせていただければ幸いです。